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花咲線について
知るほど、
旅に出たくなる。
地球のダイナミズムを感じられる、美しく強い路線。
それが花咲線です。
走っているのは北海道の東。
花咲線という名前は愛称で、
北海道一長い鉄道路線
「JR根室本線(滝川-根室)」のうち、
釧路と根室を結ぶ135.4kmの鉄路をそう呼んでいます。
車窓に森林や牧場、太平洋などが展開する
風光明媚な路線で、
沿線にはラムサール条約登録湿地が位置しています。
この別寒辺牛湿原は野鳥たちが飛来するサンクチュアリ、
緑と水が織りなす幻想的な風景に圧倒されます。
野鳥は自由に飛び交い、
動物たちは一つの所に留まりません。
車窓に映る湿原や緑、
海や空も一瞬ごとにその表情を変えてゆきます。
だからこそ花咲線の旅は、
車窓から目が離せない鉄道旅になります。
日本、そしてアジアの最東端を走る鉄道旅は、
発見と感動に満ちあふれた時間。
そう、まさに地球探索鉄道、花咲線の旅へ出かけます!
旅の始まりは、港町・釧路から
花咲線の旅は、港町である釧路駅からスタート。頭上からカモメの鳴き声が響き、磯の香りを感じる風が、旅の始まり感じさせてくれ、心が浮き立ちます。さらにもうひとつ、旅を盛り上げてくれるのが名物駅弁の数々。釧路駅には「いわしのほっかぶりずし」などたくさんの名物駅弁があり、どれをいただこうかと楽しく迷います。
釧路駅を出発して住宅街を抜けると、
線路の両脇には防風林が続くようになり、
視界いっぱいの緑色に包まれます。
やがて厚岸が近づくと、車窓に太平洋が映り始めます。
森林風景から海へと視界が開けていく瞬間は
まさに感動的!
夏季には海岸でコンブ干しの様子も眺められます。
厚岸は全国でも有数のカキの名産地として知られます。
昔から鉄道ファンや旅人たちから愛されてきたのが、
駅前の氏家待合所で作られる名物駅弁「かきめし」。
駅から徒歩約10分の道の駅
「厚岸味覚ターミナル・コンキリエ」では
カキ料理や炉端も楽しめます。
さぁ、絶景ポイントへ
厚岸駅を出発すると、いよいよ花咲線の絶景ポイントである別寒辺牛湿原の中へと進んでいきます。1993年にラムサール条約登録湿地に指定された厚岸湖・別寒辺牛湿原は、タンチョウやオジロワシ、ヒグマなど日本でも北海道だけでしか目にできない動物たちが息づく湿原。オオハクチョウなどの渡り鳥も飛来します。
緑と水が織りなす湿原風景は、
とても神秘的!目に映るのは川やヨシ、
水辺に舞うアオサギやマガモ。
水鳥たちのサンクチュアリは、
まるで童話に出てくるような別天地、
緑鮮やかな夏の今、
この風景のなかをいつまでも列車に揺られていたくなります。
もちろん春の新緑、夏の鮮やかなグリーン、
黄金色に色づく秋、凍てつく冬景色、どの季節も美しい。
雲や霧のベールに包まれる風景も、
藍色に染まる夕暮れどきも、全てが絵になります。
糸魚沢をすぎると、車窓はまた緑色に変化。
線路沿いの木々や牧場の草原が
緑のグラデーションとなって窓を流れ、
列車は東へと進んでゆきます。
林の中にエゾシカを発見し、牧場には白黒まだらの模様の牛。
馬も走っています。
「すごいなぁ、北海道の動物たちにあえる」と呟きながら、車両の一番前方、私たち鉄道ファンが「かぶりつき席」と呼ぶ、線路と風景の両方を見られる場所に立ちます。花咲線を走っているのは「キハ54形」と呼ばれるディーゼルカー。車のように自走するディーゼルカーは、頭上に架線(電車が必要とする送電線)がないため、北海道の大きな空を見渡すことができます。キハ54形には、車両ごとになつかしいシートが使用され、旅人たちをノスタルジックな思い出の旅にも誘ってくれます。緑色のシートは、「特急おおぞら」で使用されていた183系のシート。青色の地にエトピリカなど花咲線の特徴が描かれたシートは、かつて北海道と本州を結んでいた津軽海峡線の快速「海峡」で使用されたシート。深い赤色のシートも、津軽海峡線を渡っていた789系で使用されていたシートで、こちらは「ルパン三世ラッピング列車」に使用されています。
花咲線に位置する浜中町は、
物語が始まったときから今も愛され続ける名作
「ルパン三世」を生んだ漫画家モンキー・パンチさんの故郷。
沿線の駅ではルパンや峰不二子、銭形警部、
次元や五右衛門も待っています。
そしてもう一両、
車体にハマナスの花びらと雪の結晶をモチーフにデザインした
ラッピング列車にも出会えます。
一瞬ごとに変わる車窓、
そして最東端へ
列車が進むごとに花咲線の車窓はどんどん変化。木々と草原のグリーン・グラデーションを駆け抜けると、窓の向こうに太平洋が見えてきます。空はまるで宇宙が透けて見えそうなくらいに透明なブルー、その空を映すクリア・ブルーの海に、海岸線に寄せる白い波のレース。
海の先に突き出し、急峻な崖となって海へ降りていく落石岬。青色の世界に浮かび上がる不思議な大地の景観は、あたりが霧に包まれる乳白色の海岸風景もたまらなく美しい!
見どころを「ゆっくり」走ったり、音声ガイドでご案内する取り組みも行われています。
次々に移り変わる花咲線の車窓、
そして列車は少し高台にある駅、東根室駅へ。
東根室駅は沿線の町の大切なアクセス・ポイント、
朝夕には沿線の高校生たちで賑わう青春列車の駅になります。
鉄道ファンや旅人にとっても、特別な駅。
北海道には、JR線の東西南北の端っこ駅のうち2つが位置し、
JR最北端は稚内駅、JR最東端がこの東根室駅です。
東根室駅から線路はくくっと西へとカーブし、
終着の根室駅に到着。
日本の一番東を走る鉄路は旅のゴールを迎えます。
線路の一番東にたどり着いた感動を噛みしめながら、
線路の向こうに続く、陸続きで到達できる北海道の東端が、
もうすぐそこに待っているのなら、
どうしても行ってみたくなるのが旅人の心。
その旅心を知っているかのように、駅の横には北海道の東の果て「納沙布岬」行きの根室交通で運行する路線バスが発着しています。駅前から岬に向かうこのルートが、また実に北海道らしい、果てしのない風景。私の中では鉄路&路線バスの旅が、この地の魅力に触れる絶景ルートになっています。根室の住宅街をすぎると、窓の左手にはオンネ沼が広がり、バスは歯舞の海岸線へ。視界を遮るもののない湿地帯と海岸の風景、そこに現れる漁師町。海岸の空模様は気まぐれで、草原がまるでスポットライトのような光に照らされたり、バス停がミルキー・ホワイトの霧に包まれたり、海が青や銀にとその輝きを変えます。自分がどこにいるのか分からなくなり、とにかく遠くへ来たことをしみじみ感じながら、本土最東端の納沙布岬へ到着。
夏の太陽が照りつける今、
納沙布岬の温度計が差す数字は、摂氏16度。
やはりここは別天地。
地球探索鉄道花咲線は、
ここにしかない旅に連れてきてくれます。
著者プロフィール
- 矢野直美(NAOMI YANO)
- 国内外を旅して写真を撮り、文章をつづる。鉄道旅を愛することから「元祖・鉄子」の愛称でも呼ばれる。写真作品とエッセイを発表しながら、様々なメディアに登場。著書に「汽車通学」(KADOKAWA/メディアファクトリー)、「おんなひとりの鉄道旅」(小学館)、「鉄子の旅写真日記」(CCCメディアハウス)など多数